『FIFA』ではお馴染みのサウンドトラックだが、一般的な「HotでNow」な曲だけを寄せ集めたサウンドトラックとは違い、音楽好きでも初めて聴くようなアーティストが多く収録されている。次世代のアーティストが多数収録されているショーケースのような『FIFA』のサウンドトラックはどのように選曲されているのだろうか。

Spotifyの記事で『FIFA』のサウンドトラックを担当するスティーブ・シュヌル氏がインタビューに答えている。彼はエレクトロニック・アーツ社で音楽担当として働いており、長年『FIFA』のサウンドトラックも担当してきた。彼は「ラジオで既に流れているようではもう遅い。我々の仕事は、素晴らしい新人アーティストと楽曲を発掘し、それらを届ける事だ。」と語る。実際に『FIFA』のサウンドトラックに抜擢された楽曲のMVを見ると、コメント欄には必ずと言っていいほど“FIFA brought me here(FIFAから来た)”という書き込みが見られる。単なるゲームのサウンドトラックとは違い、新人アーティストをフックアップする役割を果たす『FIFA』のサウンドトラックだが、『FIFA20』で“The Cracks”が収録されたロンドンを拠点に活動するオルタナティブロックバンドAnother Skyのメンバーはこう語っている。
「FIFA20に曲が収録されてから、フランスからブラジルまで世界中のファンを得た。これを機会に、いままで想像もしていなかった場所にツアーに行くこともできた」
曲を選ぶ基準
『FIFA22』のサウンドトラックでは122曲27カ国から様々なジャンルの楽曲が収録されている。音楽的に多様性のあるサウンドトラックになるように選曲しているようだが、曲を選ぶ際の基準もあるようだ。1つ目は「常に音楽の影響を大きく受ける“12歳から24歳”の人々をターゲット」にすることだという。この歳に聴いていた音楽は、その後の人生を決定づけるものになるとし、10年後にサウンドトラックの楽曲を聴いた時に、その時代がフラッシュバックするような、「親世代の音楽」ではないトレンドを予測した楽曲を選曲しているという。
EAの音楽担当チームは6名と小規模で動いているようだが、彼らは「良い耳を持つ」「本能的直感を大事にする」「音楽関係者と関係を持たない」ことを大事にしているようだ。世界中に多くのユーザーが存在する『FIFA』はアーティストのプロモーションに最適だが、あえてレーベルなどの音楽関係者と距離を置くことで、独自の目線で選曲されたサウンドトラックに仕上がっているのだろう。
『FIFA22』サウンドトラックの注目アーティスト
音楽担当者は「普通なら繋がることのない、海外の音楽を聴かないサッカーゲームを楽しむ層と発掘した新人アーティストとの接点を生むことを意識している」と語っている。新人からメインストリームで活躍するアーティストを収録した『FIFA22』のサウンドトラックから注目アーティストを紹介したい。
Yesterday – Loyle Carner
サウス・ロンドン出身のラッパーLoyle Carnerが2020年にリリースしたシングル曲。アメリカのヒップホッププロデューサーMadlibが作るソウルフルなビートが堪らない一曲。彼はアンフィールドのシーズンチケットを所有するほどのリバプールサポーターであり、幼少期から熱狂的なサポーターだったことが”Yesterday”のMVに登場するリバプール関連グッズから伺える。
Gildin’ (feat. slowthai) – Pa Salieu
UKの最注目ラッパー2人による、どこか耳から離れない独特なリズムが癖になる楽曲。最も輝かしい活躍をした新人ラッパーが選出されるアメリカのヒップホップ誌XXL Magazineが主催する『XXL Freshman 2021』ではUKシーンで活躍する2人でありながら、共にノミネート。UKのヒップホップシーンにおいても異彩を放つslowthaiと自身のアフリカルーツとUKの音楽を融合させた楽曲で注目を集めるPa Salieuには今後も目を離せない。
BUZZCUT (feat. Danny Brown) – BROCKHAMPTON
アメリカのヒップホップクルー(自称ボーイズグループ)BROCKHAMPTONの最新アルバム『Roadrunner: New Light, New Machine』収録の楽曲。気味の悪いサイレンのような音から始まるカオスなビートと客演のDanny Brownとのマイクリレーに圧倒される強烈な楽曲だ。今年1月に無期限の活動休止を発表した彼らだが、カニエ・ウェストのファンフォーラムで結成して以来、7枚のアルバムを発表。”BUZZCUT”の様な攻撃的な楽曲の他、”SUGAR”や”SUMMER”などスウィートな楽曲もあるので是非この機会に聴いてみては。
Fear No Man – Little Simz
イギリス・ロンドン出身のラッパーLittle Simzが昨年リリースし、各批評サイトで2021年のベストアルバムとして称賛された4作目のアルバム『Sometimes I Might Be Introvert』収録の楽曲。アルバムはオーケストラの壮大さに圧倒されながら、気持ちいいグルーブ感も味わうことができる傑作だ。既に貫禄さえ漂い、新人とは言えない領域に達している彼女だがイギリス最大の音楽賞「ブリット・アワード(Brit Awards)2022」で最優秀新人賞を受賞した。
The Mission – Bakar
イギリス・ロンドン出身のシンガーBakarは周りの友達が大学に進学するなか、音楽スタジオに通う日々を送り音楽制作を始めたという。『FIFA19』でも”Big Dreams”が収録されたことで注目を浴びた彼だが、故ヴァージル・アブローのルイヴィトンでの初めてのコレクションでモデルを務めるなど多彩な活躍を見せ、さらなる飛躍を遂げて、最新アルバム『Nobody’s Home』から”The Mission”が『FIFA22』に収録された。アーセナルのファンだという彼は、現在、レアル・ベティスに所属するエクトル・ベジェリンとも10代からの旧知の仲で、2019年のアーセナルのキャンペーンでも共演している。
Mixer – Preditah Remix – Amber Mark
アメリカ・NYを拠点に活動するシンガーAmber Markの楽曲”Mixer”をUKのプロデューサーPreditahがRemixしたUKガラージを感じる1曲。彼女は今年、待望のデビュー作『Three Dimensions Deep』をリリース。空間を感じさせるスピリチュアルなサウンドに仕上がっており、堂々のデビューを果たした。今後のR&Bシーンにおいて最重要アーティストになること間違いなしの注目アーティスト。
【FIFA22サウンドトラック】
【参考記事】
Spotify, Get a Sneak Peek Into the Songs Behind ‘FIFA 22’ From Steve Schnur, President of Music for EA Games, https://newsroom.spotify.com/2021-09-23/get-a-sneak-peak-into-the-songs-behind-fifa-22-from-steve-schnur-president-of-music-for-ea-games/
THE FACE, Pitch perfect: the mighty power of the FIFA soundtrack Music, https://theface.com/music/best-fifa-game-songs-football-soundtrack-22
Goal, How FIFA soundtracks became cultural tastemakers: ‘The music you listen to defines your life’, https://www.goal.com/en-bh/news/how-fifa-soundtracks-became-cultural-tastemakers-the-music/1q9rssq6hz9tq1oifjd65bvj6w